生成動画の能力境界が正面から語られることは少ない。メーカーの資料は「できること」を説明し、コミュニティのチュートリアルは成功例を示す。一方、「どのようなショットを試すべきではないか」は、多くの場合、自分で時間を使って境界にぶつかるまで分からない。
本稿は、その衝突の過程と、本来なら衝突前に避ける手掛かりとなり得た統計を記録する。
まず統計から:公開済み5ワークフローの228件のプロンプト
目的は、信頼できるアクションショットの制作工程を構築することだった。着手前に、すでに公開まで到達した作品を分解し、どのように作られているかを調べた。
対象は、公開された完全なワークフロー5件である。最大のものは284ノード、411接続を含んでいた。生成パラメーターをノード単位で抽出すると、231個の動画ノードと228件のプロンプトが得られた。
最初の結果は予想どおりだった。
| 入力方式 | ノード数 |
|---|---|
| マルチモーダル参照(複数画像による人物・場面の誘導) | 188 |
| テキストのみの生成 | 43 |
| 1枚の画像を厳密な開始フレームとして使用 | 0 |
参照画像数の中央値は3枚だった。傾向は「画面内の主体数 + 重要な小道具数」に近い。単一主体の雰囲気ショットでは1〜2枚、4人の群像ショットでは7〜9枚が使われていた。
二つ目の結果は予想外だった。プロンプト内の動作語を集計すると、次のようになった。
| 分類 | 該当数 | 割合 |
|---|---|---|
| 攻撃動詞(振る、斬る、叩く、砕く、飛び掛かる) | 41 | 18% |
| 二主体の相互作用 | 14 | 6% |
| 接触、命中、衝突 | 5 | 2% |
| 防御、受け流し | 2 | 1% |
攻撃は頻繁に記述されている一方、接触はほとんど記述されていない。さらに、接触に見える5件を個別に確認すると、その割合はゼロになる。2件は、手のひらが相手の身体に触れた瞬間にそのまま通り抜けるという、意図的な非実体表現だった。残る3件は、人物がデータの奔流にぶつかる、あるいは地面へ落下する場面であり、キャラクターと環境の衝突であって、キャラクター同士の接触ではない。
公開作品の228件のプロンプトには、キャラクター同士の物理的接触を記述した例が一つもなかった。
いずれも公開まで到達した成功例である。接触の表現に失敗したのではなく、接触を構造的に回避していた。
次に実験:10回の生成による反対側からの検証
目標にしたのは、巨大な岩石造物が攻撃し、剣士が回避、反撃、防御する二者の戦闘ショットだった。統計が示した空白領域に、正面から入る課題である。
10回の生成を通じて、7種類の問題を一つずつ修正した。いずれも再現可能な因果関係を示した。
- 交互に動く演出 — 開始画像が静止した対峙であれば、出力は双方が順番に動く構成になる。開始時点ですでに動作の途中に置くことで修正できる。
- 画風の崩壊 — 画像から動画を生成する場面で独立した画風説明を書くと、新たな合成目標として扱われ、入力画像の画風を押しのける。画風を再記述するのではなく、「参照画像の画風を維持する」と継承を宣言する必要がある。
- 非人間主体の解剖学的変形 — アーチ状の四足造物の前肢が、数フレームのうちに細長く揺れる肢へ伸びた。一般的なネガティブ語彙ではなく、該当するキャラクターと失敗形状を具体的に指定しなければならない。
- 参照画像に固定される空間距離 — 参照画像で二者が離れていれば、モデルはその配置を複製する。「4メートル離れる」と書いても、モデルはメートルを操作可能な尺度として理解しない。人物のいない背景画像を用い、立ち位置を動作記述に委ねることで配置を解放できた。
- 動作の因果 — キャラクター同士の接触を避けるため、攻撃対象を「人物の足元の地面」と書くと、モデルは実際に無関係な地面を攻撃した。攻撃は人物を直接狙い、回避した結果として外れる構造にする必要がある。
- 静止による尺埋め — 12秒のショットに3つのビートしか書かなければ、残り時間は静止で埋められる。激しい戦闘では約2〜2.5秒に1ビート、12秒なら約5ビートが必要になる。
- 不要な終幕 — 動作の終了後に、人物がカメラを向いてポーズを取る。明示的に禁止する必要がある。
7項目の修正はいずれも成立した。最後まで成立しなかったのは一つだけである。攻撃と回避の因果的な説得力だった。
現象は安定していた。攻撃側は腕を振り、回避側は前転する。それぞれの動作自体は正しい。しかし、攻撃の軌道は回避側がいた位置へ一度も収束しなかった。「二人がそれぞれ一つの動作をした」ように見え、「一人が相手の攻撃を避けるために移動した」ようには見えない。
10回目の生成後、実験を終了した。
二つの方法論的結論
抽出フレーム一覧による目視評価には構造的な弱点がある
生成動画の評価では、抽出フレームの一覧が長く使われてきた。本実験では、同じ出力に対する判定が4回続けて訂正された。「動きがある」と判定したが実際には因果がない、動作の種類を誤認する、「ある動作がない」と判定したが実際には存在する、「画風が維持されている」と判定したが実際には変化している、という訂正である。
理由は明確である。因果関係はどの単一フレームにも存在せず、フレームとフレームの間に存在する。姿勢は抽出画像で確認できても、因果は確認できない。さらに、主体が不規則で複雑な形状を持ち、背景と近い色であれば、サムネイルの大きさでは姿勢さえ判別しにくい。
二つの客観的な代替手法も試したが、いずれも成立しなかった。
- フレーム差分による運動軌跡 — 雨やカメラ移動などの全体変位が差分信号を覆うため、先にグローバルモーション補償が必要になる。
- ラプラシアン応答による質感指標 — 高周波テクスチャの分布は測定できるが、金属光沢や段階的なハイライトのような低周波の特徴には反応しない。そのため、人間が明確に指摘した画風の問題を検出できなかった。
現実的な対処は、自動判定の対象を狭めることである。動作、因果、画風は人が判断し、プログラムは実際に測定できる項目だけを報告する。具体的には、尺、解像度、ビットレート、枠線、色彩統計、禁止要素の有無、設定値が正しく反映されたかどうかである。
文書化された知見は自動的には検索されない
振り返りでは別の数字も得られた。本作業で必要になった結論のうち7件は、すでにプロジェクト内の文書に記録されていたにもかかわらず、必要な時点で参照されなかった。いずれも失敗後に思い出された。その中には、今回の課題とほぼ同じ内容を扱った対照実験、2週間前に記録された画風の判断、同じ担当者が整理したアクションショットの三原則が含まれていた。
別のツールで進めていた並行作業にも、まったく同じ傾向があった。84件の資料を持つ知識ベースがありながら、必要なときに検索されなかった。
問題は文書の量や質ではない。 文書を増やしても、「調べない」ことは解決しない。検索を「覚えておくべきこと」ではなく、工程の最初の必須動作にする方が有効かもしれない。たとえば、プロンプトを書く前に、既存の実験記録とプラットフォーム内の手順を必ず検索する。この方法はまだ検証していない。
境界と限界
統計の対象は、同じプラットフォーム上の中国語圏の制作者による5件のワークフローに限られ、題材も都市ファンタジーとSF短編に偏っている。「このサンプルでは誰もキャラクター同士の接触を描かなかった」ことと、「キャラクター同士の接触は描けない」ことは同じではない。 統計が直接支持するのは前者だけである。ただし、その方向は三つの独立した内部観察と一致している。広い画角では刃の接触に割けるピクセル数が不足すること、物語上も接触そのものを映すべきではない場合が多いこと、隣接する制作工程でも「接触前に切る」に相当するショット名が使われていたことである。
この境界を回避する標準的な手法は、インパクトカットである。攻撃が届く直前を撮り、カットし、その結果を撮る。接触そのものは、人が確認した1〜3フレームの静止画で補う。本稿の実験は事情により、この手法を検証する前に終了した。
結論は、使用したモデルと本稿執筆時点に限定される。