Moran’s I、空間ラグ、空間誤差項——あらゆる空間統計量は、それ以前の一つの決定に依存する。誰を誰の近隣とするのか。 空間重み行列 W は、その答えを置く場所である。n × n 行列の要素 w_ij が単位 i と j の結びつきの強さを表し、慣例として w_ii = 0 とする。一度固定すれば、空間ラグ Wz は各単位の近隣値の加重平均であり、空間手法が実際に操作する対象となる。
データが W を渡してくれるわけではない。構造は研究者が選ぶ。
- 隣接。 地域
iとjが境界を共有するときw_ij = 1。Rook 隣接は辺の共有を必要とし、Queen は頂点の共有も数えるため近隣が増える。行政区や国勢調査区など面単位に自然である。 - 距離帯。 距離
d_ijが閾値δ以下ならw_ij = 1、それ以外は 0。単純だが閾値に敏感で、小さすぎると近隣を持たない孤島が生まれ、大きすぎると高密度地域の近隣数が極端に増える。 - k 近傍。 各単位を最も近い
k単位へ結び、どこでも近隣数をkに保つ。密度が不均一な場合(混雑した中心と疎な周縁)に頑健だが、構造上非対称になりうる。iがjの近隣でも、その逆とは限らない。
次に行標準化を行う。各行を行和で割って Σ_j w_ij = 1 とする。すると Wz は真の平均となり、近隣数が異なる単位間でも比較できる。空間パラメータ(ρ、λ)も解釈可能な有界範囲に収まる。Moran’s I と空間回帰の双方で標準的な処理である。
内面化すべき点は、W が測定値ではなくモデル仮定であることだ。外生的に事前指定するものであり、結果変数 y から推定してはならない。しかも影響は大きい。密な W は一般に測定される自己相関を強め、選択の悪い W は空間モデルを決める診断検定の結論まで反転させうる。必要な規律は次の通りである。
- 実質的な根拠に基づいて構造を選ぶ——なぜこれらが近隣なのか。
- 望む答えに
Wを合わせないよう、結果を見る前に固定する。 - 別の合理的な
W(異なるk、Rook と Queen、別の距離閾値)でも分析を繰り返し、結論が残るかを報告する。
一つの恣意的な重み付けでしか成立しない物語は、空間の物語ではなく W の物語である。