軽くて価値の高い財では運賃が価格の1%に満たないことが多く、立地は賃金で決まる。それでも部品・人材・顧客が工場をつなぎとめる。
映像は直感をつかむためのもので、数値の出典と適用範囲は本文を基準とする。縦型版の英語・日本語字幕版は今後の予定。
靴や衣類のように軽くて価値の高い財では、コンテナの海上運賃が貨物価格の1%に満たないことが多い(2010〜2019年の上海発欧州・米国西海岸の平均運賃)。運賃がこれほど小さければ、工場を少し遠くへ移しても輸送費はほとんど増えず、立地は主に賃金で決まる。日系工場の作業員の月額基本給は中国約629ドル、ベトナム約302ドルで、約2.08倍である。ナイキの靴の委託生産は、中国がFY2007の約35%からFY2025の17%へ下がり、ベトナムは約31%から51%へ上がった。ベトナムの増加分の大部分は2018年の米中貿易摩擦より前に生じている。
背後にあるのはウェーバーの労働費指向である。映像の説明用の数値例では、輸送費が最小の地点の年間総費用は260(輸送費100+労働費160)。賃金の安い地点では輸送費が40増えるが労働費が60減り、240になるので移る方が得になる。追加輸送費が労働費の節約にちょうど等しい線が臨界等費用線で、その内側の低賃金地はどこも移転に値する。運賃が半分になれば追加輸送費も半分になり、範囲は大きく外へ広がる。輸送費が相対的に重要でない産業をフットルース型産業という。
それでも工場は遠くへは行かない。
- 賃金差の多くは生産性で埋まる。中国の就業者1人あたり産出はベトナムの約1.80倍(APO 2023、経済全体の平均)で、製品1単位あたりの労働費は概算で約15%高いだけである。
- 部品はまだ中国にある。ベトナムは2025年に中国から約1,860億ドルを輸入し、対中赤字は対米黒字より速く増えた。ベトナムは中国の隣なので、移っても部品から遠くない。
- ハイテク工場は顧客・集積・人材を見る。TSMC熊本工場の社長が最初に挙げた理由は顧客に近いことだった。
注意:運賃が安く見えるのは、財が軽く高価になったことによる部分が大きい。海上運賃の従価率は数十年あまり下がっておらず(Hummels 2007)、1キロあたりの運賃は2002年以降上がっている(OECD)。賃金(市場為替レート)と生産性(購買力平価)は基準が違うので、15%は概算である。
日本語の授業版(横型)
講義のペースに合わせた日本語の横型版。上下2本に分け、導出・数値例・確認問題まで扱う。
出典: Rodrigue(OECD 2005 に基づく);JETRO「2025年度 海外進出日系企業実態調査」;Nike 10-K;APO Productivity Databook 2025;ベトナム統計総局;Hummels (2007);Weber (1909)。