住宅は単一の財ではない。床面積、築年数、最寄り駅までの徒歩時間、指定された学校、敷地の洪水リスクといった属性の束が、一つの価格で取引される。ヘドニックという考え方(Rosen, 1974)は、その束の市場価格から各属性の潜在価格、すなわち買い手全体が限界的にいくら支払おうとしているかを読み取る。
形式的には、価格の対数を属性に回帰する。
ln P_i = α + β·A_i + γ·S_i + δ·L_i + ε_i
A はアクセス(学校や駅までの徒歩時間)、S は建物属性(面積、築年数)、L は立地属性(中心地までの距離、環境リスク)を表す。各係数は限界的な潜在価格である。「学校までの徒歩分数」の係数が負なら、徒歩時間が短いほど買い手は高い価格を支払うことを意味する。近接性が価格に資本化されているのである。
なぜ価格を対数化するのか。主な理由は三つある。(1)価格分布は右に歪むことが多く、対数によって正規分布に近づく。(2)係数を半弾力性、すなわち属性が一単位変化したときの価格の概算変化率として読める。(3)一般に当てはまりも改善する。
立地が価格に入る理由は、二つの古典的な考え方から説明できる。
- 付け値地代理論(Alonso, 1964)。家計は立地の費用とアクセスの利便性を比較する。重要な施設に近い土地は移動を節約できるためプレミアムを持ち、価格は距離とともに低下する。
- Tiebout モデル(1956)。家計は、自らの選好に合う公共サービスを持つ地域へ移ることで「足による投票」を行う。学校教育が居住区域と結びつくと、学校の質とアクセスが住宅に束ねられ、その顕示選好が価格に資本化される。
推定を誠実に保つには、いくつかの規律が必要になる。
- 異なる種類のアクセスを一つの指標へ押し込まない。 小学校と中学校へのアクセスは、まったく異なる形で価格へ反映されうる。低年齢の子どもほど空間的制約が強いため、両者をまとめると差が隠れる。
- 対数化した説明変数を平均中心化する。これにより切片は平均的な属性束の予測価格となり、二次項など非線形距離項との共線性も緩和される。
- 本当に異なる部分市場(集合住宅と戸建てなど)は、まとめずに層別化する。価格形成の仕組みも空間構造も異なりうるからである。
最も重要な留保は、ヘドニック係数が市場における相関であって、因果効果ではないことだ。観測されない地域の質や家計の空間的な自己選択が推定に入り込む。ある立地を価値あるものにする同じ選別過程が、その立地変数を内生的にもする。ヘドニック面は分析の出発点であり、因果主張の終点ではない。そしてデータが地図上にある以上、誤差も係数も空間的に行儀よく振る舞うとは限らない。後続のノートは、まさにその問題を扱う。