まず大域的な問いから始める。近い場所の値は似ているか。大域 Moran’s I は一つの数で答える。各単位の平均中心化された値 z_i と、その近隣平均 Wz_i の相関に相当する。
I = (n / S₀) · (Σ_i Σ_j w_ij z_i z_j) / (Σ_i z_i²), S₀ = Σ_i Σ_j w_ij
行標準化された W なら I = z'Wz / z'z に簡略化できる。正の I は似た値同士の集積(ホットゾーンとコールドゾーン)、負の I は高値と低値が隣り合う市松模様を意味する。
推論では二点が誤解されやすい。
- 空間ランダム性を帰無仮説とすると、
E[I] = −1/(n−1)であり、わずかに負であってゼロではない。nが大きくなるときだけゼロへ近づく。比較対象はゼロではなく、この期待値である。 - 有意性は正規/ランダム化分散の閉形式からも、置換からも得られる。値を位置間で何度も入れ替え、経験的な帰無分布を作る。正規性が疑わしいときは置換の方が安全である。
しかし大域 I には盲点がある。これは平均だからである。ある地区では強い集積があり、別の地区では何もない地図や、反対方向のパターンが相殺する地図を一つの数が隠してしまう。そのために局所版がある。
LISA(局所空間関連指標;Anselin, 1995)は、大域統計量を単位ごとの値へ分解する。
I_i = z_i · Σ_j w_ij z_j
そして自地点の値と近隣平均の符号から各場所を分類する。
| 類型 | 自地点 | 近隣 | 読み方 |
|---|---|---|---|
| HH | 高 | 高 | ホットスポット |
| LL | 低 | 低 | コールドスポット |
| HL | 高 | 低 | 低値地域の高値外れ |
| LH | 低 | 高 | 高値地域の低値外れ |
HH/LL はクラスター(正の局所関連)、HL/LH は空間外れ値(負の局所関連)である。局所項の和は大域 I に戻り、厳密な分解になっている。
LISA 地図を壊す最大の罠は、各場所で一つずつ仮説検定するため、何千もの同時検定になりうることだ。補正しない擬似 p 値は、偽の「有意」クラスターを地図中に散らす。色付き地図を信じる前に、多重比較補正(FDR/Benjamini–Hochberg、または Anselin が論じる条件付き調整)を行う必要がある。そして常に、全体像は W に依存する。近隣の定義を変えれば、ホットスポットも動きうる。
最後に、対象変数がすでに空間平滑化されている場合——重なるカーネルで推定した係数など——Moran’s I が拾う自己相関の一部は、実在する空間過程ではなく平滑化が機械的に作ったものかもしれない。集積を評価する前に、変数がどう生成されたかを確認すべきである。