産業が最初にどこに根づくかは偶然のこともある。いったん根づけば、残る方が移るより得なので、そのまま残り続ける。
映像は直感をつかむためのもので、数値の出典と適用範囲は本文を基準とする。縦型版の英語・日本語字幕版は今後の予定。
米国のタフテッド・カーペットの8割以上は、ジョージア州の小さな町ダルトンの周辺で作られている。伝えられるところでは、1895年ごろ15歳のキャサリンが結婚祝いにベッドカバーを作り、近所の人が欲しがり、農家が家で作るようになり、地元の機械工がタフティング機を作った。100年以上たった今も、なぜカーペット工場はここに集まっているのか。
二つの小さな町の工場の収支で考える(工場の建設費4、向こう側へ1単位運ぶ運賃1)。
- 工場も労働者も東にあるとき、東は7単位、西は3単位を買う。東の1工場だけなら3単位を西へ運び、建設費込みで7。両方に建てれば8、西へ移ればさらに高い(11)。だから工場は東に残る。
- 最初から両方に工場があれば、各町が5単位ずつ買う。1つだけ残すと4+5=9で、2つの8より高いので、両方とも残る。
- 同じ運賃でも、1つか2つかは最初の状態しだいである。結果が出発点で決まること、これがロックイン効果である。
- さらに奇妙なことに、工場と労働者を一方にまとめれば合計7で8より安いのに、先に工場を閉じた方が損をするので、8を払い続けることになる。固定された形が最も安いとは限らない(ここでは企業の建設費と運賃だけを数えている)。
ドイツにも偶然が形を決めた例がある。1937年、ドイツの空港の旅客の約4割はベルリンを通っていた。戦後ベルリンは東側に取り残され、米軍は目立たないフランクフルトを軍用航空路の欧州側終点に選んだ。40年後にはフランクフルトが4割近く、ベルリンは1割未満になり、統一から10年以上たっても拠点は戻らなかった。
反対の例が日本である。戦時中に大きく破壊された都市も、典型的な都市は15年以内に全国の都市の中での相対的な大きさを取り戻し、広島はその約1.5倍の時間がかかった。両者は矛盾しない。ロックインは産業の最初の一歩がどこに落ちるかの話であり、育った都市は空襲でも消えない。育った形を動かすには、ドイツの分断のように強く長い衝撃が要る。福井の眼鏡(国産フレームの9割超)や今治のタオルも、偶然に始まり残った産地である。
日本語の授業版(横型)
講義のペースに合わせた日本語の横型版。上下2本に分け、導出・数値例・確認問題まで扱う。
出典: New Georgia Encyclopedia;Patton (EH.Net);Krugman (1991);Redding, Sturm and Wolf (2011);Davis and Weinstein (2002);経済産業省工業統計;今治タオル工業組合。数値例は Krugman の簡単なモデルに基づく説明用の数字。