以前の制作記録では、一曲の要望をどう指示にまとめるかを扱った。制作を続けると、別の問題が出てきた。気に入った版ができた後、次はどこを直すのか。そして、狙った変更が本当に音になったと、どう判断するのか。
以下は今回の制作記録から整理した経験であり、モデル全般の能力順位ではない。旧モデルや旧画面の設定値も、そのまま新版には持ち込めない。
何が難しい曲なのかを先に決める
最初は、流派の珍しさや編成の密度で難しさを見積もっていた。しかし、慣例が明確で主唱が一人の曲は早くまとまることがあり、密度の高い編曲でも順調な例があった。試行を重ねたのは、流派の特徴を保ちながら、その流派の典型的な音をいくつも避けたい場合だった。
たとえば、シンフォニックメタルの力強さは欲しいが、予告編風の男声、何度も止まる管弦楽の導入、英雄的な和声は避けたい。一つずつは自然な注文でも、合わせると隣接するスタイルへ戻る結果を繰り返し修正する必要がある。楽器を一つ増やすほうが、必ずしも難しいわけではない。
今は先に三つを書き出す。
- 残すもの:旋律を担う役、リズムの推進力、感情の方向。
- 変わってよいもの:装飾音、局所的な音の重なり、短いつなぎ。
- 出たら採用しないもの:苦しい高音、意図と違う声部、方向を変えてしまうサビ。
この一覧で、最初に試す区間を選ぶ。一つの歌唱箇所だけが不確かなら、曲全体を何度も生成する前にそこを確かめる。
指示にも役割を分ける
初期の記録では、長めの否定リストをStyleに入れていた。その後、一部の出力で、否定文に何度も書いた特徴がかえって目立ったため、汎用的な書き方として勧めるのはやめた。ただし、この観察だけでモデル内部の否定処理を説明することはできない。
| 場所 | 担当 | 今回の試行で使った方針 |
|---|---|---|
| Style | 全体の流派、主役、音色、推進感 | 2拍目と4拍目のスネアなど、音として確認できる肯定表現 |
| 区間タグ | 誰が演奏し、その区間を何が動かすか | 編曲の手がかりを一、二個に絞る |
| Exclude | 避けたい楽器やスタイル | Styleとは別に記録して保存する |
Excludeの用途はSuno公式説明で確認できる。入力欄があっても、結果の試聴は必要だ。
終わりだけに出したい楽器を、曲全体のStyleでも強調しすぎない。今回の試行では、局所的な要求が他の区間へ広がることがあった。対応する区間へ移し、他の部分が保たれたかを聞くほうが、制限を足し続けるより判断しやすかった。
一回の変更で一つの問いに答える
基準にできる版が見つかったら、次はドラムの重拍、主奏楽器、一つの区間の密度など、一項目だけ変える。他の設定はできるだけ揃える。生成にはばらつきがあるので、一度よくなっただけでは因果関係は証明できない。それでも、五項目を同時に変えると失敗の原因さえ追いにくい。
比較は二回に分ける。まず変更箇所を聞き、次に全曲を通して聞く。局所的によくても、つながりが崩れた版はそのまま基準にしない。何回か続けて離れていくなら、最後に気に入った版へ戻る。
モデルとモード、Style原文、歌詞とタグ、除外項目、参照音声やPersonaの有無、実際のスライダー値、出力ID、採否の理由を残す。重要なのは予定値ではなく実際の値だ。記録には、オフの予定だった設定がオンのまま、数値も予定どおりに設定されていない例があった。
整理時点の公式v6 FAQでは、Varietyはスタイル指示を調整し、タグを完全に自分で制御したい場合は0に下げると説明されている。旧記録のWeirdnessやStyle Influenceの値を、新版共通の処方として扱わず、利用するモードの操作項目を先に確認する。
完成ページのスタイル説明も、元の入力の代わりにはならない。プロジェクトでは説明と実際の音が合わない例があった。実験の一次記録に向かないとはいえるが、そこから生成処理全体の仕組みまでは断定できない。
転調の指示は音声で確かめる
指定した調で始まること、途中で別の調を一瞬示すこと、サビでその中心を保つことは別の結果だ。記録には、転調しなかった版、数フレーズで戻った版、新しい調を保った例がある。タグや完成ページの文章だけでは区別できない。
そこで、二つのローカルツールを使って確認した。本稿はその方法の説明であり、オンライン判定サービスではない。
keyscanは音声を22,050 Hzのモノラルへ変換し、8,192点FFT、2,048サンプルの間隔で解析する。65–2,100 Hzの範囲から十二音級のエネルギー分布を取り、調律のずれを補正し、長短24個の調性テンプレートと相関を比較する。全曲と移動窓の両方を見る。
分かるのは「どの調に近い分布か」である。上位二候補の相関係数は類似度であり、正解である確率ではない。平行調、編曲中の目立つ音、短い窓の影響を受ける。全曲の一位だけでは、途中の変化も隠れる。
keytrackは二つの候補調について、それぞれの七音の音階に入るエネルギーの割合を比べる。標準は六秒窓、三秒間隔。現実装では適合度の差が正負0.03を超えると一方への傾きとし、それ以外は曖昧な区間にする。この閾値は作業上の目安で、有意差検定ではない。
音の材料の変化は示せても、主音が変わった証明にはならない。平行長短調は音集合を共有するため、この比較では分けられない。借用和音や半音階の音でも適合度は動く。別の音集合の点数が上がることと、新しい調性中心ができることは同じではない。
数値をもう一度、耳へ戻す
意図した転調位置を記し、前後の窓を比較し、つなぎ、旋律の着地点、その後のフレーズを聞く。新しい中心が続いているのか、一度だけの和声の色なのかを確認する。
数値と聴感が合わなければ「未確認」のまま残し、必要なら鍵盤やDAWで音高を照合する。本稿のために新しい精度試験を行ったわけではなく、個別の成功を調性制御の保証にもしていない。
今回役立ったのは、やり直すたびに「何を変え、何が聞こえ、何の証拠が足りないか」を決めたことだった。よい版と失敗した判断の両方を保存すれば、次の試行を曖昧な印象から始めずに済む。